企画編集・執筆/紙からWEBまで 言葉の工房オリジン コトバはソウゾウの限界を知らない。
     

在日外国人インタビュー集

     
 

Person 12

 

互いに知り合いたいとは思わずに、
適当に決まった会話をしているだけでは、
いつまでたっても、
フレンドシップは生まれません。

 

日本は妻の国なので来ました。
タイで生まれた子どもの物心がつくころに、
母親の国を体験させてやりたかったのです。

日本に来て困ったこととは特にありません。
わたしが日本語でコミュニケーションをはかれない、
という点をのぞけば。
仕事にも恵まれていますし。

同胞のフィリピン人女性が就ける仕事は
エンターテイメントに偏りがちで、
往々にして偏見をもたれていることは知っています。
わたしは男性ですし、
弁護士という肩書きのおかげで、
日本に来てからも偏見で傷つけられることはなかったです。

日本的習慣、日本的ふるまいに従う。
日本は非常に規則づけられた社会ですから、
そこを間違えないようにふるまうことに気をつけて、
これまでトラブルなく過ごしています。

日本人との対人関係についても、
まず日本人を観察し、心理を知ることから始めました。

日本人は静かですね。
話しかけづらい雰囲気をもっています。
人とコミュニケーションをもつことを望んでいない、
そんな風に見えます。

たとえば、象徴的な具体例をあげると、
電車の中の雰囲気が、
日本人のコミュニケーションに対する姿を表しています。
他の人に興味を示さない。
みんなノー・アイ・コンタクトですね。
コミュニケーションが生まれる雰囲気ではありません。
みんな本を読んだり、うつむいたり。
誰も人と目を合わそうとしません。

フィリピンやタイでは、
みんな電車の中でもキョロキョロ周りを見渡して、
誰かと目が合うと微笑んで、時には会話がはじまります。
日本はそういうところではありませんね。

電車の中に限らずゼネラルルールとして、
他人と目を合わしたりしない。
ノット・キューリアス・アバウト・エニィシング、
というアイデアがあるのです。
他人に関心を示してはいけない。
外国人に対してだけではなく、
日本人どうしの間でもそうです。
何事に対しても無関心でいることが
日本で暮らしていく上でのルールだと肝に銘じています。

わたしの母国フィリピンも含め、
南アジアの人間はコミュニケーションが大好きです。
道を歩いていてすれ違うだけの相手とでも、
目が合えば笑みを交わし合うし、
気が合いそうな感じだったら、
「どこに行きます?」「あちら」
くらいの会話を交わすのは、珍しいことではありません。
そうして他人に関心を示すのは失礼ではないのです。

日本で、そういうことをすれば失礼になるでしょう。
日本だけではなく、韓国、中国などもそのようですね。
北アジアと南アジアの違いですね。

なかでも日本は、人との距離も遠いですね。
心理的にも、物理的にも距離感があります。

他人に関心を示して、
気軽にコミュニケーションを求めてはいけない。
日本人の心理、距離を知り、分かることに務め、
失礼のないように、
身のふるまい、礼儀、習慣に気をつけています。

日本に来て間もないころ、こんなコトがありました。
日本でも電車が混雑している時には詰めて座りますよね。
その時、隣の女性のスカートを敷いてしまったんです。
そうしたらその人、ムッとした顔で何も言わずに
パッと自分で引き抜いてしまったんです。
相手のその反応に、ショックを受けました。
外国人であるわたしへの偏見かと思ったんです。

フィリピンだったら、
肩をとんとんと叩いて「敷いてるわよ」と言います。
敷いた方が「あ、ごめん、ごめん」と腰を浮かし、
スカートを直すというように、
コミュニケーションで解決するんです。

日本の場合は、コミュニケーション抜きで
ムッとして、パッと引っぱる。
習慣の違いだと分かれば大丈夫ですが、
最初のころは、こういった習慣の違いに
ショックを受け傷つきました。
日本人があまりコミュニケーションを望まない、
その心理を知ってからは、大丈夫ですが。

そういう経験からも学び、
日本人に対してコミュニケーションをもとうと
強く働きかけることを、ひかえています。

職場の人たちとは、
仕事中と、ランチタイムでのつきあいだけです。
職場でビジネス以外の交流があるのは一人だけ。
在日韓国人の女性とだけ、
ウィークエンドのつきあいがあります。
その人だけが、わたしの体験を聞きたがるのです。
わたしはタイでも暮らしていましたから。
母国を離れて海外で暮らした体験について聞きたがります。

他の日本人は、興味がないようです。
職場の日本人は、わたしに近づきたがりません。
彼らは知りたがらず、知られたがらずなんです。
ただ、海外体験のある日本人は、
その体験の中だけの話しをすることがありますけど。
それをきっかけに、プライベートな交流が始まり、
何かの意見交換をするなどはありません。

そんな状態ですから、
日本人とはフレンドシップを築けないでいます。
わたしが日本語を話せないのが、
大きな壁になっていることは確かです。
けど、それ以上に、彼らの周囲に壁を感じます。

わたしの出会った限りでは、
日本人が深く話すことを望まないんです。
何かについて話そうと思っても、
適当なところでの返事しか返ってこない。
だからわたしもそれ以上は押さない、話を進めない。

もともとわたしが、
人に対して押していくタイプではないこともありますが、
日本人と意見や考え方を話して交流を深めていくことは、
無理なんだろうと思っています。

テーマや悩みについて、意見を交換することはなく、
決まったことしか話さない。
それ以上は話さないから親しくなっていけない
のです。

人と人は知り合いたいと思わなければ、
知り合えないでしょう。
お互いに関心を示すことを避けながら
適当に決まった会話をしているだけでは、
いつまでたっても、フレンドシップは生まれません。

それに、日本の男性は特に、
仕事のことしか考えていないように見えます。
日本人の距離感を守り、時間がかけながら
いろんなことを話せる、
心のつきあいができる友人になりたいと思っても、
きっかけが見つけられない。
仕事のことしか考えていないようだから、
男どうし、人どうしとして
いろんなことを話し合える関係にはなれないんです。

話すことがないから、
たとえ誰かと知り合う機会があっても
その人たちと会い続ける理由がないんです。
フレンドシップを育てようがないのです。

わたしの子どもは、もう少し大きくなったら
日本以外で育てようと思います。
学校に通う年齢前に、日本を出ようと考えています。

日本の学校は競争社会、勉強ばかりのところです。
自分の子どもには、
もっと自由にやわらかく、外の世界で、
いろんな人に出会って、いろんなことを学ばせたい。

外の世界に開かれた環境で、
柔軟な考え方、英語、いろんな文化にふれさせる。
人と接することで、たくさんのことを学び、身につける。

外の世界に、人に関心をもち、
新しくショッキングで、
自分とは違うことを知っている人間と、
どんどんと意見交換をする。
そうやって人と話し合い、分かち合いながら、
多くを学んで欲しい。

本からだけでは学べないことを、
人と触れ合い、分かち合うことで学ばせてやりたいのです。

 

フィリピン・30代後半・男性

 
 
     

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